【後編】秩父銘仙の現代物を買いました

秩父銘仙の現代物を着た人たちの記念写真

待ちに待った、織元の新啓織物さんとお会いするイベント当日。主催はきものこすぎさんで、ドレスコードは「新啓織物さんの秩父銘仙」。仕立てあがった秩父銘仙で初めて出かける楽しみと同じくらいには、ほかの方のコーディネートが楽しみだった。着物関連の会合に行くといつも、人様のお召し物が気になって、ついジロジロ見てしまう……。まあ、みなさんさすがに普段から見られ慣れていらっしゃるので、大抵は快く許してもらえるのだけど。

秩父の山並み

数年ぶりに秩父へ。車で1時間と少し走るだけなのに、しっかりと小旅行の気分に浸れるのが、我らが秩父。気候は、まだ袷を着る厳しさを実感する快晴で、山のほうは熊谷よりも多少は涼しいかしらと期待していたものの、やはり秩父も暑いのだった! 現地の新啓織物さんいわく「熊谷が暑い日には、秩父も暑いですよ」とのことです。(笑)

秩父銘仙の織元さんと対面

新啓織物さんの説明を聞いている人

会合では、着物を着る人たちと作る人たちとに、貴重な接点が生まれた。おのおのが選んだ銘仙への思いを語り、それを聞いた織元さんが、はにかんだような表情で一つひとつ受け止める様子に、そのすべてを見ているわたしは内心、誰ともつかない大きなものに感謝をしたくなる。着物に限らず、どんなお気に入りの服にだって、世界のどこかに必ずそれを作った人がいて、しかし往々にして、その人へ自分の口から感謝を伝えることはできないものだ。わたしも自分のもとへ来た銘仙のことが大好きで、そんな銘仙と一緒ならば、自信満々で織元さんへ着姿をお披露目できてしまう。

秩父銘仙が描かれたモニュメント

せっかく織元さんとお話できるまたとない機会なので、気になっていたことを尋ねてみた。現代物の銘仙には、アンティークの銘仙のような模様のずれが少ないように見えるが、なにか違いはあるのか。これに関しては、“ずれのないほうが技術が高い”という一つの考え方のもと、織る機械や技術が改良されたそうだ。ただし、織元さんの話しぶりからは、単にずれがないほうが好ましいと考えるに留まらず、ほぐし捺染ならではのずれを表情の一環として捉えてもいらっしゃるのだろうと推察された。現に、ほかの方が着られていた銘仙のなかには、ずれによって生まれた味わいに惹かれて、仲間内で「この部分がいい感じね」と自然と話題にのぼった品物もある。現代物の品質の高さについては、わたしなどが改めて説明するまでもないだろうが、銘仙という着物にできる表現の豊かさとして、織元さんが想像よりも遥かに多くのエッセンスを大切にされているのを思い知った。

この秩父銘仙の秘密が明らかに!

秩父銘仙の現代物を着用する人

ちなみに、わたしの選んだ銘仙は、紫色がチャームポイントだそうで、実は緯糸に黒を使って立体的な色味に仕上げているのだそうだ。どうか写真でも伝わるとよいのだが、この色の存在感が、まさか織り方からきていたとは。同様に、ほかの方が着ていた銘仙には、緯糸の工夫によって陽に当たると玉虫色に見えるものがあった。室内と屋外とで変身するおもしろさ。まるで、変色する宝石アレキサンドライトのように、ミステリアスな一着ではないか。

秩父銘仙の現代物を着た人たちの記念写真
集合写真(きものこすぎさん撮影)

最後に、きものこすぎさん撮影の集合写真を。同じ銘仙でも、こんなに色んな着こなしができる! これで後編を終えるが、10月には埼玉県立歴史と民俗の博物館で企画展「銘仙」が始まろうとしている。銘仙ファッションショーの観覧に申し込み、当選したらこの銘仙で足を運ぼうと考えているので、また次回。


おまけ

着物を題材にした小説を書きました。ほんの少しですが、秩父銘仙も登場します。作品の紹介ページもご覧になっていただけたらうれしいです!

毎週末に着物を着る生活をエッセーに綴りました。着物を着る方には、きっとクスッと笑ったり共感したりと、一緒に楽しんでいただけるはず! Instagramに載せたお気に入りの写真も何枚か掲載しています。お手に取っていただけますと嬉しいです。