着物の小説『紗袷を着て往く』

紗袷を着て往く

この本はこんな人におすすめ
・祖母と着物の忘れられない思い出がある
・どんな着物よりも特別に思い入れの強い一着がある
・人から受け継いだ着物を大切に着たい

この小説を読んだ着物仲間が「自分の持っている大切な着物を将来どうするべきかと改めて悩んだ」と感想を言っていたのが印象的でした。誰かから譲り受けた大切な着物を受け継ぐのはとても嬉しいけれど、ふとその重みにはっとすることもありますね。


本の内容

祖母から孫へ、紗袷の着物が託されたその年に、高齢者と若者は未知のウイルスの脅威に引き離される――。北埼玉で暮らす着物好きの美乃里が、“不要不急”の着物を通じて、人とのつながりを紡いでゆく。紗袷(しゃあわせ)の着物をめぐる小説。

 数十年ぶりに桐箪笥から出された畳紙はすっかり黄変している。紙面には「藤村呉服店」という店名と、「騎西町」から始まる住所が書かれていた。合併によって現在の加須市となった祖母の出身地だ。おそらく若い頃に行きつけだった着物店なのだろう。
 「開けてみろ」と祖母が得意げに促す。美乃里はまだしっかりとしている紙縒をほどいた。よほど思い入れのある一枚となれば娘時代の振袖か。それとも、思い切って手を出した伝統工芸品や作家物か。果たして包みを開いて現れたのは、透き通った布地の上にもやもやとした模様がうごめく、見たこともない着物だった。
「うそ、もしかして紗袷じゃない!」
「いいもんだべ」


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