埼玉県立歴史と民俗の博物館で2022年に開催された企画展「銘仙」へ、秩父銘仙を着て行きました。
この企画展、本来は昨年度に開催の予定だったのですが、感染拡大の影響から一度中止になってしまった経緯があるのです。わたし自身、暗いニュースの多い日々のなか銘仙展が数少ない楽しみの一つだったので、中止の知らせを聞いたときはだいぶ落ち込んでしまいました。せめて展示されるはずだった着物を見てみたくて、通販で購入した図録を自宅で眺めては、乙女心をくすぐる銘仙の色柄に慰められたものです。
そんな背景があったので、時を経て改めて企画展「銘仙」の開催を知り、飛び上がるほど喜んだのはわたしだけではなかったはず。
秩父銘仙のコーディネート
せっかくなので、秩父銘仙の織元さんを訪ねた日とは別のコーディネートを組んでみました。黒羽織は母の桐箪笥にあったものです。ひょっとしたら令和には出番がなくなってしまいそうな黒羽織ですが、あえて着る機会を作りたくて、ジャケットを羽織るような感覚で合わせています。想像以上に黒の重厚感が出るので、足元はいつものお出かけよりもかっちりめに、エナメルの草履を。
企画展「銘仙」を観る
会場内は一部のエリアを除いて写真撮影OKでした。展示室に入った途端、着物の多さに驚いて、一体どこから見ればいいのかしらとキョロキョロ……。怪しい動きをしていたかもしれません。かわいい銘仙をこんなにたくさん披露してくださってありがとうございます。事前に図録で展示品を見ているので、初めてお目にかかるはずが懐かしさを感じる着物もあり、まるで再会を果たしたかのようで嬉しかったです。
銘仙の技法と、その技法で作られた着物を紹介するエリアもありました。これまで経糸を先染めする銘仙しか見たことがなかったので、それぞれの技法の違いにより、全体にどのような印象の違いが生まれるのか、じっくりと見比べられたのがよかったです。とりわけ、経糸と緯糸の双方を先染めした「併用絣」の、こっくりとした色味ときたら! あの濃ゆい色彩と浮き上がるような質感は、もう一度しっかりと実物を見ておきたいですね。
それから、経糸と緯糸にあえてかけ離れた色を使うことで、色の見え方に変化を生む技法は「玉虫織」と呼ぶのだそうです。ちょうど先日、秩父銘仙の織元さんとの会合で、経糸と緯糸に異なる色を使った銘仙の話も聞いていました。当日、ある参加者の方が着ていた現代物の秩父銘仙はまさに、光の具合でツヤめいて色の変化が見られたので、玉虫織で間違いなさそうです。解説によると、この玉虫織は秩父銘仙の得意とする技法の一つだそうで、同じ銘仙でも産地による個性がこれほどあるとは驚きました。
ちなみに、わたしが着ている紫色の秩父銘仙は、玉虫織の特徴とは異なるようですが、緯糸に黒を使って色に深みを出していると織元さんから伺いました。補色や反対色を使って玉虫色を生み出すほかにも、現代の生産者の方は伝統的な技法でさまざまな表現をされているのかもしれません。今後の着物ライフでも、生産者の方とお話しする機会がまたあったらいいなあ。
企画展「銘仙」では、そんな秩父銘仙の現代物も見られます。展示の最後には、今なお秩父銘仙を生産されている新啓織物さんと逸見織物さんの反物が並んでいました。これからの秩父銘仙を見てみたい方もぜひ。
中止からの1年あまり、図録を読んで期待していましたが、埼玉ゆかりの銘仙をたっぷりと見られて地元の着物好きにはたまらない企画展でした。実は、自分にはもう一度、展示を見に行く予定があります。今回は解説を読むのに夢中になってしまったので、次回は着物そのものを余すところなく鑑賞して、どんな風に着ようかと妄想しながら回りたいと思います。
おまけ
着物を題材にした小説を書きました。ほんの少しですが、秩父銘仙も登場します。作品の紹介ページもご覧になっていただけたらうれしいです!
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着物のエッセー『週末着物の三年間』
毎週末に着物を着る生活をエッセーに綴りました。着物を着る方には、きっとクスッと笑ったり共感したりと、一緒に楽しんでいただけるはず! お気に入りのコーデ写真(白黒)も掲載しています。冒頭部分を無料公開しているので、ぜひご覧ください。
着物の小説『銘仙日和』
今と昔の秩父銘仙の生産者を、レトロなちちぶ銘仙館を舞台に描いた小説です。大正~昭和時代に銘仙の織り子として働いた女性たちのインタヴューを読み、おばあちゃんたちと対話したくなって書きました。こちらも冒頭部分を無料公開しています。
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