父の形見の大島紬を、男着物から女着物へ仕立て替えに出しました! 親族の着物を受け継いでからというもの、とりわけどう活用したものかと悩んでいた、父の着物たち。このままずっと桐箪笥で眠らせておくのは勿体ないので、もっと頻繁に着られるように男物の着物を女物にして、自分の着やすいスタイルにチェンジすることに決めました。
男着物から女着物への仕立て替え計画
今回、男物から女物への仕立て替え相談に持っていった父の着物は、以下の3点です。着物のデザインや寸法などを考慮して、当初の予定とは大きく異なる仕立て方になった部分もあります。ここでは、各アイテムが今後どのように変身するのか、仕立て替え計画をお伝えします。
1.大島紬・長着
亀甲柄の大島紬です。父はやや背が低かったので、現状は女物として着るには身丈が大幅に不足しています。また、せっかくこのような仕立て替えをするのならば、片身替わりに仕立ててはどうかと、着物屋さんから心躍るご提案が! 次の写真の大島紬と合体して、最終的には1着に仕上がる予定です。
右側の大島紬は、父方の祖母のものです。大変気に入っていたのですが、わたしが着るには身丈・裄・袖丈などのサイズが小さめだったので、もともとお直しを検討していました。まさか、ひょんなことから片身替わりの着物として生まれ変わることになるとは! はからずも母と息子のコラボレーションです。
着物屋さんから、華やかな印象がある祖母の大島紬が上前に来る仕立て方をご提案いただきました。2着はまったく別の経緯でわたしの手元へ来た着物ですが、同じ素材同士であるため自然と雰囲気が馴染みます。父の大島紬はわたしが着るには地味になりすぎるのではと懸念していましたが、片身替わりになることでより自分好みのコーデができそうです。実は、ずっと前から片身替わりの着物が欲しかったので、一つ夢が叶ったのも嬉しい!
元の八掛はこんな色です。仕立ての際は、祖母の大島紬のほうの八掛を利用するので、少し雰囲気が変わるはず。こうした細部の変身も楽しみですね。
2.長襦袢
正絹の長襦袢です。こちらはわたしが着るには身丈が長すぎました。とはいえ、こういったくすみ系のブルーが好きなのもあり、なかなか諦めきれず……! なんとか活用する方法がないかと、着物屋さんと話し合ったところ、現在仕立てている最中の羽織の裏地として生かすという素敵なご提案をいただきました。
この鮮やかな水色をした抽象模様の反物は、母方の祖母の色無地だったもので、ちょうど洗い張りから戻ってきたところでした。初めは単衣の羽織に仕立て替えする予定でしたが、思いのほか父の長襦袢と相性が良かったので、この絵羽模様を生かして袷の羽織にすることに。さて、父方と母方の親族の着物が入り混じり、だんだん話がややこしくなってきましたね。(笑)
背中の絵羽模様は、笠に煙管、そして和綴じ本。本の紙面には山と海の風景が描かれており、旅のイメージにも見えます。ところが、古典の教員である友人に尋ねたところ、紙面に書かれた和歌は百人一首の「我が庵は都のたつみしかぞすむ 世を宇治山と人はいふなり」続いて「春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ」であるようです。なんと、いずれも旅を題材にした和歌ではありませんでした!
3.大島紬・羽織
同じく亀甲柄の大島紬です。男着物を女着物に仕立て替える際は一般的に身丈が不足するため、当初はこの羽織から不足分を継ぎ足す予定だったのです。ところが、今回は片身替わりで仕立てることになったので、こちらの羽織を解く必要はなくなりました。ともかく、このようなアンサンブルを所有していれば、男物を女物へチェンジができる可能性があるそうですので、ご参考までに。
裏地はこんな感じです。普段着ている羽織よりも華やかで、はっとします。
ここまでの事例で仕立て替えの相談に対応してくださったのは、熊谷市「きものほしか和」代表の阿部さんです。着物を着る人の立場になって親身にアドバイスをくださる方なので、ぜひ店舗Instagramをご覧ください。 |
仕立て替えをした判断基準
男着物から女着物への仕立て替えは、時間と手間のかかるお直しになります。わざわざお金を出してまで仕立て替えをするべきなのかと、判断に迷うところです。以下では、わたしがしばらくうーんうーんと唸って、やっとのことで仕立て替えを決断した理由をご紹介します。どうか参考になりますように!
親族のメンズが誰も着られなかったから
これが一番の理由ですね。父の着物は、わたしの夫が着るにも、弟が着るにも、身丈が足りませんでした。仮に折り込みを出したとしても、残念ながら親族のメンズにはとても着られそうにありません。いつか夫に着せて夫婦で着物コーデを楽しんだり、弟に着せて家族で着物コーデを楽しんだりできるのではないかと、密かに期待していたのですが……。誰にもサイズが合わないと知ってから、しばらく一人で意気消沈していましたが、かたやメンズはせっかくの着物に無関心。だったら、むしろ着物好きの自分が着てしまおうじゃないか! そんな思いで、仕立て替えを考え始めました。
男着物のまま着る頻度が非常に少なかったから
最近では、ジェンダーレスな着方で着物のおしゃれを楽しむ方も多くいらっしゃいます。ネット上で素敵なコーデの例がたくさん見つかるので、まずは参考にチェックしてみてから仕立て替えを考え始めるのも良いかと思います。自分の場合は、普段のコーデの方向性から、男着物のままでは着る頻度が非常に少なくなってしまうので、仕立て替えを決断しました。一度袖を通してみたり、しばらく箪笥で寝かせてみたりしながら、様子を見る時間を作ってもいいでしょうね。
ちなみに、男着物のままで着てみた写真もあります。なんと、身丈はわたしの体格でジャストサイズでした! 格好よく着られているでしょうか?(笑)
父の唯一の形見だったから
着物をお直しに出すと、まとまった費用がかかります。それも、袖丈直しや身丈直しのような一般的なお直しではなくて、男物から女物への仕立て替えとなれば、それだけの費用がかかります。だからこそ、その着物にどれくらい強い思い入れがあるのかも、重要な判断基準になってくるでしょう。自分の場合、これらが亡き父の唯一の着物であったことが、仕立て替えをした大きな理由の一つになっています。わたしだけでなく母まで、娘が父の形見を着る日を一緒に楽しみにしてくれているようです。いつかこの大島を着て、誰かに「これは、実は父の着物で……」なんて話す日が来るのかしら!
お得な気がしたから
余談です。楽しい着物ライフにどっぷり浸かっているみなさんにとって、”コストパフォーマンス”などという味気ない言葉が無用であることは、わたし自身もよく理解しております。その上で、もし今手元にある着物がちょっと良い品物だとしたら、たとえまとまった費用をかけて仕立て替えをしても、得をしてしまうかもしれません。迷ったときは、お店の方に新品を仕立てた場合は目安としていくらかかるのか、質問してみてください。考えようによっては、驚きのお値段でマイサイズの着物が手に入っちゃうかも? ラッキー!
後編へ続く!
おまけ
SNSで着物コーデを投稿しています。ぜひフォローしてください!
着物のエッセー『週末着物の三年間』
毎週末に着物を着る生活をエッセーに綴りました。着物を着る方には、きっとクスッと笑ったり共感したりと、一緒に楽しんでいただけるはず! お気に入りのコーデ写真(白黒)も掲載しています。冒頭部分を無料公開しているので、ぜひご覧ください。
着物の小説『銘仙日和』
今と昔の秩父銘仙の生産者を、レトロなちちぶ銘仙館を舞台に描いた小説です。大正~昭和時代に銘仙の織り子として働いた女性たちのインタヴューを読み、おばあちゃんたちと対話したくなって書きました。こちらも冒頭部分を無料公開しています。
Online Shop