Home 着物

秩父銘仙の織元「新啓織物」さんの工場見学【写真付レポート】

半木製力織機で秩父銘仙が織られている

秩父銘仙の織元「新啓織物」さんの工場を見学してきました!

新啓織物さんといえば、埼玉県秩父市で現代物の秩父銘仙を作り続けている織元の一つです。着物の反物のほかに、ほぐし織の技法で作ったファブリック製品のブランド「ハタオト」を展開しています。

わたしが着ている秩父銘仙は、新啓織物さんで作られたものです。つまり、この工場見学は自分の着物がどこでどのように作られたのかを、直接この目で確かめる貴重なチャンス。着物ファンとして、そして何より秩父銘仙ファンとして、気合いを入れて行ってきました!



3週間ぶりに熊谷から秩父へ

秩父へ向かう道中の車窓の風景

前回、ちちぶ銘仙館を見学してから約3週間。またもや着物に導かれて秩父へ向かっています。紅葉する山から「またお前か!」という声が聞こえてきそうです。

長瀞の岩畳にも立ち寄らず、紅葉シーズン真っ盛りの山にも登らず、惜しげもなく秩父銘仙のふるさとへ直行! なんといっても、我々埼玉県民にとって秩父はいつでも行ける距離にありますからね。(笑)

とはいえ、せっかく秩父へ行くので、当日の着物はやはり秩父銘仙です。この日はモノトーンの帽子と博多帯に、帯周りは淡いグリーンの指し色でコーデしてみました。これだけインパクトの強い色柄でも、銘仙は想像以上に幅広い取り合わせを実現できてしまうので、毎度コーデを考えるのが楽しい!

きものサローネ2023のきものマルシェ
きものサローネ「きものこすぎ」さんブースで展示されていたほぐし捺染の糸(左)

「秩父銘仙」は、埼玉県の秩父地域にてほぐし捺染ほぐし織の技法で作られた絹織物のことを指します。

新啓織物さんの工場には、絹以外の素材を使って製造する織物もあるそうで、その場合の製品は「ほぐし織の綿麻」や「ほぐし織のストール」といった呼び方になるとのことです。ただし、この記事ではわかりやすいように、工場で作られる織物全般を「秩父銘仙」と表記します。

ほぐし捺染・ほぐし織の技法や秩父織物の歴史について、詳しくは「ちちぶ銘仙館」で学べるので、興味のある方はぜひ訪れてみてください。

「新啓織物工芸」の看板

それでは、新啓織物さんの工場を覗いてみましょう。

秩父銘仙の製造には多くの工程がありますが、以降は工場内の様子を「糸を染める工程」と「染めた糸を織る工程」の大きく2つに分けてご紹介します。


【工場の様子】1.糸を染める工程

秩父銘仙の製造工程は、初めに糸を染めて、その後に染めた糸を織るのが大きな特徴となっています。まずは、糸を染める作業がどんな場所で行われているかをご紹介します。

秩父銘仙工場内、捺染を行う場所

こちらは、経糸を型で染める場所です。長~い台の上に、型や手袋などの道具が置かれています。ちょうど反物の形に染料の跡がついているので、作業風景がイメージしやすいのではないでしょうか。

なお、新啓織物さんは秩父銘仙の織元ですが、このように糸を染める工程も担っているそうです。その背景として、現在の秩父地域では織元だけでなく、捺染を専門とする工場も軒数が少なくなっているという事情があります。

秩父銘仙「大麦矢羽根」柄の型

現代物の秩父銘仙は、このようなシルクスクリーンの型とヘラを使って糸を染めているそうです。この型に浮かび上がる柄、秩父銘仙ファンなら見覚えがあるかもしれませんね。そう、ウイスキーの原料である大麦をイメージした秩父銘仙の新柄「大麦矢羽根」です!

秩父銘仙の昔の型紙

一方、こちらは昔ながらの秩父銘仙の型です。型の素材も、染料を塗る道具も、先ほどのものとは違っています。しかし、どちらも経糸を染める道具です。丸の中に独特の曲線が描かれたこの模様は、テニスボール柄でしょうか。コロンとしたボールが色んな向きで転がり、素朴で可愛らしいですね。

ほぐし捺染で染めた糸を巻くときに包む布

長い布が巻かれて太いロール状になっています。こちらの白い布は、染めた糸を挟んで巻くのに使うそうです。上の布には染料が染みてうっすらと柄が浮かんで見えます。特大サイズの水玉模様。実はこの柄の色違いのデザインが欲しくて気になっていたので、個人的には大変見覚えのある水玉ちゃんなのでした。(笑)

秩父銘仙工場内、ほぐし捺染の糸を蒸す場所

最後は、染めた糸を蒸して、染料を糸に定着させる場所です。

ちちぶ銘仙館のギャラリーで視聴できる映像資料では、写真右手奥に写っているサウナ小屋のような設備の中で、ロール状の反物を蒸す様子が見られました。映像資料では糸を染める工程の全体像を学べるので、ご興味のある方は銘仙館へGO!

ここまでご紹介した道具や機械は、工場内のごく一部です。織る前の工程でも多くの手間がかかっていることがわかりました。


【工場の様子】2.染めた糸を織る工程

続いて、染めた糸を織る場所をご紹介します。

秩父銘仙工場内、織機で反物を織る場所

工場内には何台もの織機が並んでいます。このうち秩父銘仙を織るのに使われているのは、写真の奥のほうに写っている「半木製力織機」という秩父地域で作られた機械です。なお、手前に大きく写っているのは、新啓織物さんが引き取った十日町の織機とのこと。

緯糸を巻く機械

織機のほかにも、さまざまな機械がありました。こちらは、緯糸を巻き取る機械です。実際に機械を動かす様子を見せていただきましたので、ぜひ動画でご覧ください!

カラカラカラカラ……。木製の部品がくるくる回ったり、左右に動いたりしながら、画面下の糸枠にどんどん糸が巻かれていきます。このように機械が自動で作業をこなしていくのですが、どこか温かみがあり、まるで生き物の動きのように見えてくるのが不思議です。

半木製力織機で秩父銘仙が織られている

こちらが、新啓織物さんの秩父銘仙を織っている半木製力織機です。

ここまで見てきた経糸と緯糸がそれぞれ織機にセットされ、いよいよ織る段階に。新井さんが手を添えて、一本一本の糸の様子をチェックしながら丁寧に織っていきます。こちらの織機を実際に動かす様子も見せていただきましたので、動画でご覧ください!

ガチャン! ガチャン! ガチャン! ガチャン! ……と大きな音が響きます。

機械で織るのは手織りに比べたら速いとはいえ、それでもこうして少しずつ、少しずつ織られていくのですね。ちなみに、仮織りした糸を手で外すときや、なにか問題が生じたときは、その度に機械を止めて作業するそうです。美しい反物が完成するまでには、作る人の目や手が欠かせません。糸を染める工程も含めて、何反分もの長さを織るのは、どれだけ途方もない道のりなのだろうかと驚きました。いつも着ている秩父銘仙も、こうして出来上がったんだなあ。

ちなみに、織機がどんな仕組みで織っているのか気になった方は、わたしが銘仙館で機織り体験をしたスーパースローモーション映像(!)がわかりやすいので、併せてお読みください!


現代物の秩父銘仙の反物がたくさん!

工場見学を一通り終えて、改めて秩父銘仙の反物と対面。これまでと反物の見え方が大きく変わったのは、言うまでもありません!

現代物の秩父銘仙は、大きな柄や鮮やかな色使いなどの銘仙らしい魅力を備えながらも、着物でお出かけする幅広いシーンに自然と馴染む着やすさがあると実感します。ひとりのユーザーとして、ぱっと目を引く華やかさ・着られる場面の多さ・帯合わせの楽しさは、特におすすめしたいポイント!

これまでの秩父銘仙のコーディネートは、Instagramきものレシピに記録しているので、一着でどんな着回しができるのか、見ていただけたら嬉しいです。

秩父市の風景

秩父銘仙のことをたくさん学んで、お天気にも恵まれて、素敵な着物日和になりました。


おまけ

Home 着物

SNSで着物コーデを投稿しています。ぜひフォローしてください!


着物のエッセー『週末着物の三年間』

着物のエッセー『週末着物の三年間』

毎週末に着物を着る生活をエッセーに綴りました。着物を着る方には、きっとクスッと笑ったり共感したりと、一緒に楽しんでいただけるはず! お気に入りのコーデ写真(白黒)も掲載しています。冒頭部分を無料公開しているので、ぜひご覧ください。

着物の小説『銘仙日和』

今と昔の秩父銘仙の生産者を、レトロなちちぶ銘仙館を舞台に描いた小説です。大正~昭和時代に銘仙の織り子として働いた女性たちのインタヴューを読み、おばあちゃんたちと対話したくなって書きました。こちらも冒頭部分を無料公開しています。


Online Shop