あの控室に入った瞬間の衝撃は、今後の着物人生で決して忘れられない記憶になるでしょう。竹久夢二生誕140年を記念して開催された「夢二スタイルゆかた自慢コンテスト」に出場する仲間たちと、初めて対面したときのことです。浴衣の取り合わせは言うまでもなく、小物使い、着付け、ヘアスタイルに至るまで、手を尽くして夢二式を表現した女性たちがそこにいました。「そういえば、夢二式美人にはそんな要素もあったな」と、自身の装いからこぼれ落ちた夢二式の断片を見ては、惜しくなったものです。
普段の自分だったら、手放しにこれらの浴衣姿を賞賛し、うっとりとした気分で着物談義に花を咲かせたはず。ところがその日、目の前にいた夢二式美人は皆、同じコンテストの出場者です。わたしも一介の着物好きですから、着姿を見ればそれがどれほど考え抜かれたスタイルであるか、熱意も思考の深度も読み取れるつもりでおります。あなたはなんて素敵な夢二式美人なのかしらと敬意がわいてくる。それなのに、彼女たちが素敵であればあるほど、自分が憧れた賞は遠のいてゆく――そんなわけで、大好きな浴衣姿に見惚れては肝を冷やすという、まったく奇妙な体験をしました。
さて、そんな一夏の思い出ができたのも、着物ファンを魅了してやまない竹久夢二という画家の存在あってこそ。どうしたら夢二式美人になれるのだろうかと、彼の作品を通じて考えをめぐらせたのは、なにも今回のコンテスト期間中に限った話ではありません。しかし、あの日に出会った何人もの夢二式美人を振り返りながら、改めて作品を鑑賞してみて気づいたのです。
「夢二式美人」と聞いておぼろげに浮かんでくる像があります。あの目つき、手つき、姿勢、着物の着こなし……。一方で、作品に登場する女性たちは、年齢も異なれば、着物の嗜好も、ヘアスタイルも、意外と多様なのです。では、わたしの脳裏に浮かぶ夢二式美人の像は、一体なにものなのか。思うにその美しさは、わたしたちに少しずつ与えられた美しさなのではないでしょうか。誰もがそこに自分の持てる小さな美の面影を発見しては、人知れず親しみをおぼえるような、そんな身近な美しさ。この先もわたしは幾度となく、夢二の描いた女性たちから着物の着こなしを学び直すに違いありません。
夢二スタイルゆかた自慢コンテスト「ゆかたで夏詣賞」受賞を記念して
未衣子
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