着物を大切に扱うってどういうことよ

「汚れたらクリーニングに出せばいい」

 とある着物好きな方が、雑談のなかで何気なく言っていた言葉だ。着物を始めて二度目の冬、とりわけわたしの印象に残り、そして影響を受けた一言である。

 着物を着て出かけると、どんなに気をつけていたとしても、着ているものを汚したり、傷つけたりしてしまう可能性がある。日頃の立ち振る舞いに気を使えば、多少はリスクを避けられるだろう。だが、着物の扱いについて学べば学ぶほど、それを大切に扱うすべを身につける一方で、着物を損なう恐怖と常に隣り合わせになる。汚すのが怖い。傷つけるのが怖い。そんなふうに着ていれば、体がかたくなってしまう。

 こうして、ちょうど身動きが取りづらくなってきた頃に、「汚れたらクリーニングに出せばいい」と耳にした。汚れたらクリーニングに出せばいいから、どんな食事にも気軽に着て行くし、こぼしたって気にしない。一見すると粗野にも見える物言いだが、直観的には「このひとは着物を大切にしているのだ」と感じられて意外だった。

 着物は素材によっては自宅での手入れができないし、クリーニングの代金だって安くはないし、必ず元通りになる保証もないから、もちろん汚れないに越したことはない。それでも、損なうのを恐れるあまり着たいものを着ずにいる理由もまた無い、というわけだろう。

 自分の場合、着物を損なう恐れは、余計なクリーニングの代金を支払いたくない算段と、決してイコールではなかったように思う。それよりか、大切なものを大切に扱うことに固執しすぎていたのだ。ところで、「大切に扱う」とは一体どのような扱い方を指すのだろうか。汚さないため、傷つけないため、着ればいつもピリピリして、あるいはほとんど箪笥にしまっておくのは「大切に扱う」といえるのだろうか?

 今はあれこれ自問自答しながら、自分なりの「大切に扱う」の塩梅を探している。季節柄、羽織やコートで身につける着物は重たくなるのに、心なしか肩の荷がおりたようで、着心地が軽やかに感じられる二度目の冬である。