報せ

またね、といってシーちゃんは、白い殻に空いていた小さな穴を、内側から閉じてしまった。シーちゃんが、さいごに殻の内側でコトンと横になると、それからなにも聞こえなくなった。ぼーっ、と低い音が鳴り続けているような、やっぱりなにも聞こえていないような。シーちゃんの隣には、数日前に眠りについた、お父さんの殻と、お母さんの殻が並んでいる。その隣には、近所の小さい子と、お父さんお母さん。そのまた隣には、ひとり暮らしのおじいさん。さらに隣には、おじいさんとおばあさんと、娘さん。向こうのマンションには、知らない人ばかり。三階には先生が住んでいて、八階にはピーちゃんが住んでいる。白い殻が、あまりにもたくさんで、途中からもうどれが誰だかわからないけれども、とにかく知っている人たちが、どこかで眠ってはいるのだろう。ふと、シーちゃんはもう殻のなかで目を瞑ってしまったのかと考えた。そういえば、みんなが眠ったあとはどうなるのか、なぜ眠りにつくのか、大人たちに訊きそびれたから、誰にも教えてもらえない。でも、いま目の前に、ただ白い殻が几帳面に並べられていて、耳の奥がぼーっとしていると、もしかすると眠りの果ては、このままなにも変わらないかもしれない、なんて思う。あるいは、自分も殻のなかで眠れば、こんな想像をはるかに超えた、どこかへゆくのかもしれないが。あれこれ考えるあいだも、ただ白い殻が几帳面に並べられていて、耳の奥がぼーっとしている。と思いきや、ビタン! と大きな音がして、向こうのほうの列の端にあるひとつの殻が、どっと倒れてしまった。おそるおそる様子を見に行くと、倒れた殻のまわりに水たまりができている。見上げると、尖った天井の先が、ちろちろと光をかえしているので、そこから水が落ちてきたのだとわかった。倒れてしまった殻を拭いて、少し離れた別の列へ移動させておく。殻のなかでは誰かが眠っているはずなのに、よほど眠りが深いのか、持ち上げたものは石膏のように冷たく、重く沈もうとするばかり。もしも自分が眠ってしまったあとだったら、この倒れた殻はどうなっていたのだろう。またなにかが起こりやしないかと、心配であたりを見渡しても、しばらくなにも起こりそうには見えない。とぼとぼと歩いて、シーちゃんの殻の隣に、淋しく座り込んだ。誰から教わったわけでもなしに、殻の作りかたがわかるのは、一体なぜだろう。その殻を、いつになったら作りはじめるのだろう。シーちゃんの殻と、お父さんの殻と、お母さんの殻を見た。それから、几帳面に並べられている、無数の殻たちを。お父さんとお母さんは先に眠るから、あなたも早く支度をしなさい、といわれたのだったか。殻をつくって、さいごに内側から小さな穴を閉じたら、外側はどうなるのだろう。白い殻が几帳面に並べられて、寝返りの音ひとつしない、それが続く、さっき見た光景が、妙な手ごたえをもって浮かんでくる。なにもないところでうずくまり、いつまでも待っていた。シーちゃんに、お父さんに、お母さんに、みんなに殻をつくらせた報せが、ここにもやってくるまで、いつまでも待っていた。