家庭菜園をする人同士でとりわけ盛り上がるのは、失敗の話ではないか。何事も初心者に失敗はつきものだが、ことに始めたばかりの家庭菜園は、笑っちゃうくらい失敗の連続だ。もらった種が古くて発芽しなかったり、発芽したかと思えば虫に食われたり。苗から育てた葉物だって、ほとんど虫に食われてしまって、収穫は1人前のサラダもできないほど少ない。そんな話をすると、今や安定して収穫を得ている経験者からも、過去の失敗の話題が出るわ出るわ。全部虫や鳥に食われたなんてのは序の口で、無事に育ったのに食べたらおいしくなかっただとか……。なんとも残念な話ばかりであるが、ところがこの手の話をする人は、大抵楽しそうなのである。だいたいの失敗のパターンは、初心者向けの指南書に書かれていて、ほとんどの人が知識として知っていたりする。だが、「ネットをかけなければ虫に食われてしまいます」という知識そのものは、単なる知識でありコミュニケーションにはなり得なくて、「数週間前に種を蒔いたんですけど芽が出たのにネットをかけなかったらやっぱり全部虫に食われちゃったんですよね」と言えば、うんうんと頷いてもらえるのである。そして、ネットをかけないよりはかけたほうがいいなんて、誰も知らないわけがないので、「ネットをかけないからダメだったんですよ」とかなんとか一見アドバイスのように見えるだけの当たり前すぎる指摘もされずに、まあ次はなんとかなるといいですね、って感じで放っておかれる。誰かの失敗との距離感もいい。そもそも、家庭菜園を始めたときから、思えば身の回りの経験者は「失敗することもあるけれど、やってみると楽しいよね」と言ってきたのだった。わたしだって、最初は失敗くらいするだろうとは想像していたけれども、厳しめの想像よりも遥かに実際に起こる失敗のほうが多い。こんなに失敗する趣味があるか、むしろ収穫よりも失敗をするためにやっているんじゃないか、と自虐でもしなければやっていけないほどには失敗している。それでも、家庭菜園の失敗はネガティヴではない。学生時代に、選択の体育で練習したトランポリンを思い出す――成功したときも、失敗したときも、人がボヨンボヨン跳ねていた。年齢を重ねるたび、気づけばカジュアルに失敗できないことが生活の大半を占めている。みんなもっと、転んでも痛くないほど柔らかいところで、ちゃんと自分の心身で跳ねたりしながら、しかし取り返しのつかない失敗をやってみたいのかしら。明日の朝も、懲りずに葉についた虫をとりにいく。種を蒔いたときにネットをかけなかったから、いつも虫退治で忙しい。