悩みのにおい

ここのところ迷ってばかりである。もともとなめくさっていた三十代だが、これ実際、あまりに人生の分岐が一時期に集中しすぎていやしないだろうか。自分の選択を後悔しているわけでもない。でも、事あるごとに「こんなんでいいのかな」と、青信号のスクランブル交差点で立ち止まってしまいそうになる。行き先を同じくする人はいない。嫌になるほどありきたりな比喩だが、あらゆる方向へ行き交う人波のなか、すれ違う人が多すぎるのが心もとなくて、まさにあれそっくりなのだ。

久しぶりに会う学生時代の友人と、これといった考えもなしに香水づくり体験に参加したのは、そんな状況下でのこと。

体験形式での香水づくりなので、限られた時間内でブレンドする香りを選んで、一つの形に仕上げなければならない。使える精油は、もっとも多くて7つ程度。数十種類の選択肢から「自分の好きな香りである」という軸だけを頼りに、候補を絞り込んでいく。それらを試しに組み合わせてみる。単品ではどれも好きな香りのはずなのに、ぶつかってしまったり、あるいは似通いすぎていたり、相性の問題になると途端に一筋縄ではいかない。これも違う、あれも違う。この中で特に好きな香りはどれか。そもそも自分が好きな香りはこれらで間違いなかったのか。どんな香水が欲しかったのか。嗅覚の疲労も相まって、だんだんわけがわからなくなってくる……。いざ混ぜ合わせようとしたら、うっかり計画よりも多くの量の精油を入れてしまって、立て直しを迫られる一面も。一度混ぜてしまったものは、もう元には戻せない。

ほんとうに形にできるのかと危ぶまれたとき、友人と互いの試作品を嗅ぎ合ってみる。どれも見た目は透明の液体なのに、まったく違うにおいがして、はっとする。こういう香りもあるのか、と知っただけで、なぜか自分の混ぜ方をちょっと見直したり。はからずも、香水づくりが迷い多き年頃と重なって、よい香りを楽しむ以上のセラピーになった。

完成した香水を持ち帰ってみると、自室にあるお気に入りの香水とどこか似ている気がした。夫に嗅がせると「らしいね」と言われる。唐突に思い出される、いつか好きだった何らかのにおいのように、このなんともいえない香水のことも、一つの忘れ得ないにおいとして想起する日が来るのだろうか。