笑い転げるのがわたしたちの本分なのだ

「なんでこれ大人はやっちゃいけないの〜!」

 隣で跳ねていた知らないコが、ボヨンボヨン上下しながらそう言うのを、笑いすぎて痛む腹を片手で押さえながら聞いていた。たしかにそうだ。大人の女性が本気で跳ねるエアー遊具の凄まじい揺れで、前後不覚になりひどく笑いながら、わたしは内心すこし悲しんだ。フワフワには年齢制限がある。わたしたちはいつしか、ボヨンボヨン上下したり、バランスを崩して転んだりしながら、理由もなくゲラゲラ笑う楽しみを、大きくなる体と引き換えに奪われていたのだった。それでも唯一の救いに思われたのは、わたしたちの誰もが遊び方を忘れていなかったこと。跳ねて、キャーと叫び、転んで、ゲラゲラ笑う。対して、ばかみたいな自分たちの様子をスマホで自撮りできるようになったのは、唯一の成長といえるかもしれない。


 サンリオピューロランドのオールナイトイベント「SPOOKY PUMPKIN」では、通常営業で年齢制限のあるエアー遊具のコーナーが、深夜のみ特別に女性限定で開放されていた。エリア内は全員が成人女性。時間帯が時間帯なので、エアー遊具で寝て休むものかと思いきや、なんと彼女らは全力で跳ねて遊んでいるではないか。結果としてわたしと友人も、例に漏れずキャーキャーと声のするほうへ誘われ、疲労困憊の体に鞭打ち、全力で遊ぶことになるのだが……。


 先に遊んでいたコが、跳ねて笑っていた。なにがそんなに可笑しいのか? わたしもためしに跳ねてみて、それからすぐに笑った。大きな口を開けて、ゲラゲラ笑った。わたしが跳ねると、フワフワが大きく揺れて、転んだ子が上下しながら笑っている。ほかのコが跳ねると、同じようにわたしも転んで、どうしても笑ってしまう。周りを見渡すと、友人と、それから知らないコたちと目が合い、もっと可笑しくなる。新しく入ってきたコも、跳ねて笑って、すぐ仲間になった。そうだ、この楽しさを形に残さなければ! スマホのカメラを起動してムービーを撮ると、周りにいたコが自然と画角に入り込もうとする。ある女子は「イエーイ」と言いながら、ある女子は手を振りながら……。わたしも誰かの動画に遠慮なく映り込む。ばかみたいに笑っているだけで、会話らしい会話はなにひとつ交わしていない。だが、一緒に遊んだらもう友達だから、これが正しいのだ。


 夢中で遊んだフワフワから出る。一緒に遊んだ友達が「バイバーイ」と言い手を振った。わたしと友人も「バイバーイ」と挨拶する。めでたく社会性が芽生えた。


 女子校で過ごした日々を思い出す。笑いすぎて腹筋が筋肉痛になり、翌日また笑ったとき「腹筋が痛い!」と言っていた。当時、なにをそんなに笑っていたのだろうか。


 また、女子校の友人Kのことを思い出す。叫んだときの声がやたらでかい。ある日、悪ふざけで「放課後の廊下で叫んでみてほしい」と彼女に頼んだ。最初こそ渋ったものの、「叫んだ直後に走って逃げれば大丈夫だから」と説得したら、なんとか了承してくれた。いざ作戦を決行し、Kが廊下で叫んだ瞬間、わたしは自分が取り返しのつかない誤算をしていたのに気づく。想定を遥かに超えて面白かったのだ。本来ならばKと一緒に走って逃げるはずが、途中で笑いすぎて転び、その場でうずくまったまま笑い続けるしかなくなってしまった。一方のKは、笑いながらわたしを置いて走り去った。作戦失敗である。